発達障害について正しく理解している人は少ない
白井智子氏:こんにちは。白井智子です。みなさんは、発達障害を持つ人と出会ったことはありますか?
スピルバーグ監督や、俳優のトム・クルーズさんは、発達障害だと自分で言っています。古くは、エジソン、アインシュタインといった天才と呼ばれる人たちも発達障害を持っていたと言われています。
では、発達障害を持つ人というのは、どういう人でしょう? それは、先天的に学習あるいはコミュニケーションの面で「デコボコ」がある人たちです。
平均点を取ることは苦手、という人たち。また、発達障害を持つ人で、人の表情を読むことが苦手だったり、場の空気を読むことがとても苦手だという人はとても多いです。
日本では、平均点が取れなかったり、空気が読めなかったりすると、とても居心地が悪いですよね。実は、文部科学省の調査で、小・中学生で発達障害を持つ子の割合は、6.5%もいるという数字が出ています。
でも今、日本では、発達障害のことを正しく理解している人がとても少ないです。それが一番大きな問題だと、私は思っています。
理解されていないから、不適切な言葉を投げかけられたり、いじめられたりし、そうして本人たちも行き場を失って、荒れてしまったり、引きこもってしまったりします。
必要なのはあるがままの姿を認めること
私は、不登校や引きこもりの子どもと関わる仕事をはじめて15年になります。今は、日本で初めて、教育委員会や既存の学校と連携して不登校の子どもたちを受け入れる学校をしています。
それは、既存の教育と対立をして子どもたちを隔離するのではなくて、彼らが元々行っていた学校と、行ったり来たりできる学校です。
最初、多くの教育界の方々からは、「白井はいったい何をやっているんだ! 怠けている子どもを隔離する場所を作って、甘やかしているだけじゃないか!」と、全く理解されませんでした。
でも、教育委委員会や既存の学校との連携のおかげで、学校に行けなくなった子どもたちも一定期間ここに滞在をすることで、その後、既存の学校やコミュニティーに戻ることができるようになりました。
発達障害を持っている子どもたちは集団生活の中でびくびくしながら過ごしています。ぱっと見、全くわからないだけに、適切なサポートを得られていないんです。
子どもを受け入れ、いいところを見つけて伸ばし、自信を取り戻させ、きっかけを作る。10年間、ただただそれを繰り返して、気付けば市全体の不登校の子どもが約4割減っていました。彼らの話を聞いていると、社会から受け入れられた経験が乏しいことに涙が出そうになります。
まみちゃんという子がいます。ほかに行く場所がないと、私たちの学校にやってきて、毎日玄関でさめざめと泣いていた女の子。当時15歳でした。私たちは、ただ横に寄り添うことだけしていました。
授業でも誰も無理に発言も求めないから、ずっと黙ってそこにいればいい。そして、まみちゃんは3年きっちり頑張って、高校を立派に卒業し、大学へ進学していきました。
今、まみちゃんは福島県にある、震災後の発達障害の子どもたちを支援する施設で、子供を助ける側になって働いています。
そこには、誰が話しかけても反応せず、ぼーっと磨りガラスの窓を見つめるだけの9歳の女の子がいました。その女の子が、まみちゃんと出会って1ヵ月後、自分から先生に話しかけるようになったと報告を受けて、私は心の中で泣きました。
うれしくてまみちゃんに電話をしたら、「ずっと黙っている子どもの気持ち、わかります」と言いました。その女の子の心を開くのは、まみちゃんにしかできない仕事でした。
発達障害を持っていることは、決して悪いことではありません。先ほどもお話をしましたが、発達障害を持っている人で、実業界、政治の世界、スポーツの世界、アートの世界、各界で、活躍をして、人のために役に立つ仕事をしている人は、山ほどいます。
しかし、そうなるためには、発達障害をそれはそれでいいんだよと、そのまま受け入れてくれる人に、出会えるかどうか、その環境がとても重要であると私は思っています。
彼らが、あるがままの姿を認めること。「それでいいんだよ」と言ってあげる。それだけです。
こういう子どもたちを助けるシステムを構築することは、実は、日本の教育全体のために、社会全体のために、とても重要なことなんです。
早い段階で発達障害を持つ子どもと親を助けること。私は、「デコボコ」な人を大事にする、そういう人を排除しない社会というのが、日本の教育の環境全体を安定させると思っています。
大人たちがそれを率先してやることで、その周りにいる発達障害を持たない子どもたちが、「デコボコ」な子どもたちを受け入れる。そういう循環を作りたいんです。
そういう世の中になれば、不登校の子どもも社会に帰ります。
どんな子も排除しない、それが、日本の教育を底上げする。そう私は信じています!
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